資料を読むことがこんなに気が重かったことはありません。
書くと決めてからすぐに買いあさった資料は、
しばらくうず高く積まれていました。
去年から今年はどうもそういう巡りあわせらしく、
資料を読みながら耐えきれなくて歩き回ったり、
吠えたり叫んだり、
そんな作品ばかりでしたが、
それでもそれらは、
その人生を歩んだひとたちを、
愛しく思うからこそ、苦しくもなり、
怒りも湧きあがり、
無力さに苛まれる。
目をそらすなよと自分に毒づきながら、
本を読むだけなのに息切れし、
そうしてたくさんの人生を辿り、
そんなことを引き起こす
世界のシステムについて憤りながら、
でも憤ってもそれはそこに在るわけで、
思考するしかわたしにすべきことはない。
そしてその加虐の先にもひとがいる。
その人の人生も考え、身体化し、愛すしかない。
しかし目の前に置かれた本の
これから書こうとしている
その人生を、
わたしはちゃんと愛せるのか、
このテーマに取り組むにあたっては、
参加してくれる原嘉孝さんと、
おたがいのお芝居を観あうなかで、
少しずつ少しずつ話してきました。
ここまでの役柄ではなかったようなものを、
ひとの心の昏い部分をのぞき込むようなそんな作品。
そんな場所で、
彼の「やりたい」とわたしの「書きたい」が重なりました。
なのでオファーは、
ここからここまででスケジュールいただけるところありますか、
と事務所にお願いして、
大丈夫なところで劇場を押さえました。
正式に受けていただけたときはホッとしました。
健全な肉体に健全な精神が宿るって言葉は、
こういう人のためにあるんだろうな、っていう
原くんなので、まったく当て書きではありません。
わたしも当てて書いてる余裕なんて、
まったくない。なかった。
そして、資料が詰まれたまま、
数か月が経過しました。
彼のお芝居を見に行ったかえり、
ぐうぜん帰り道がいっしょになり、
わずか10分ほど話す機会がありました。
なにか資料はないか、と言われて、
わたしもまだ読めていないんだよ、
覚悟が決まらなくて、という話をしました。
彼も自分は大学で教育課程を取っていたから、
思考としては真逆かもしれない。
でもきちんと理解して演じたい、と言っていました。
さあ。読まなくては。
と思いました。
対話劇、と思っていたけれど、
拘置所での接見は違うんじゃないか、と思いました。
許された時間は20分~30分。
そして本人が望まなければ会うことは叶いません。
悩んだ末、少年犯罪、その10年後、
かつて少年だった青年のもとにひとりの女性が訪ねてくる。
そんな物語を考えました。
ここまで決めたらすぐ書きあがるんじゃないか、と思ったけど、
まったくでした。ほんとまったくだった。
1行書いては2行戻り、
書いては消し、書いては消しして、
覚悟してたとはいえこんなにたいへん?
予定を大幅にオーバーして、
想定している量の2/3くらいの第一稿を書きあげました。
そして書きあがった作品を那須佐代子さんに読んでいただき、
奇蹟的に
受けていただくことができました。
ずっとご一緒したいと思っていましたが、
ここか、ここで叶ったか、という思いです。
同時期に、脳内で勝手にイメージして書いていた
モダンスイマーズの津村知与支さんにも
受けてもらえることができました。
そして最後のひとり。殺されてしまった息子の役が
どうしても思いつかなくて、ずっと探していました。
お芝居を見に行って、あ。見つけた、と思いました。
どの人も出てきたらほとんど引っ込むことがありません。
とくに原くんと那須さんは灯りがついて消えるまで、
ただ向かい合い続けるしかない。
でも、きっと、ふたりなら大丈夫。
那須さんは初めてなので未知数ですが、
「おやすみ、お母さん」を
観に行ってその予感は確信に変わりました。
実の娘さんとあんなお芝居を
やってしまうわけなので、
最上級にイカれてるし、
きっと最高に愛に溢れてる。
そこにある昏い井戸をいっしょに覗き込み、
わたしなんかよりずっと勇敢に、
その底に下りていってしまうに違いない、
と絶大な信頼を感じています。
原くんは、ホンを渡してからチラシ撮影があり、
いつも会う時はそうであるように太陽みたいにやってきて
でもメイクしてる様子を見にいったら
そこにはすでに知らない人がいました。
ありがたいな、と思いました。
彼なら、
怪物のような自己愛と
満たされない承認欲求に翻弄された、
でもこの世の果てのように孤独な青年を
美化せずでも愛を持って表出してくれるでしょう。
そしてその対話のさなかにも空間にいつづける
津村さんと新垣くんの担わねばならないものも膨大です。
こちらも初めてお仕事させてもらうのですが、
なにかよくわからない胆力に満ちた新垣くんと、
平凡さと狂気を併せ持つ津村さんの魅力が
活かせる役が書けたんではないかと稽古が楽しみです。
いまわたしは別なお芝居の準備もしながら、
出来上がってきた美術を見つつ、
演出プランを立てているけど、
あまりにもシンプルで、
俳優4人、そこに立って向き合う、
それ以外のプランはないようにも思います。
書くまではとても怖かったけど、
こういう戯曲が書きたかったし
やっぱりこういう芝居がやりたいな、とも思う。
わたしにとってはそんなお芝居。
去年は「secret war」と「Bug」で、
わたしとしてはケレンのない直球なお芝居を
やったけど、さらに研ぎ澄ました、
鋭利な刃物のようなお芝居を、
お渡しできたらと思います。
この世に在るありとあらゆる断絶の
その狭間で紡がれる
絶望と希望についての物語
そう。希望も。
チラシに書いたこの文章に偽りのないものを。
いろいろお伝えしたくて、
ブログを一生懸命書いて、
なのにウッカリ消したりしてるあいだに、
チケットは発売され、
あろうことか千秋楽が完売になりました。
じつは、
初日、2日目、
そして22日の土曜日の昼間も、
完売がひたひたと迫っております。
まだ稽古も始まっていないのに。
ありがたすぎます。
お芝居でお返ししなければ。
息も瞬きもできないほどの時間を。
あなたに。